
◆ コロナ禍のオリンピックで本当によかったのか?
言うまでもなく一昨年終わり頃から、新型コロナの感染が発覚し、昨年初めにはクルーズ客船ダイヤモンドプリンセス号の中で、船内のスタッフや乗客に一気に蔓延した。ちょうど日本に帰ってくる最中だったので当然、医療体制を含む総合的な対策と言うのはすぐにでも取られるべきであったが、実態としては予期すらしていなかったというのが日本政府の状況だった。そのためにダイヤモンドプリンセス号はいつまでも横浜港に入港することができず、沖合で待機せざるを得ない状況になった。
本来有事の体制と言うのは、いつどこでどういう形で起こってくるかはわからない。日本政府は有事と言うものを、外国からの攻撃、または台風などによる大災害あたりしか想定していなかったのではないか。今回のような細菌による感染の蔓延と言うものを、おそらく想定はしていなかったと思われる。だから慌ててダイヤモンドプリンセス号を入港させるために、かなり手間取ったのが実態だろう。かなりな日にちを要してようやく接岸し、乗客たちが降りてきた。そしてそのまま病院等へ直行と思いきや、PCR検査などで感染なしの場合には、短期間で家帰っても良し、となった。
もちろんダイヤモンドプリンセス号だけではないが、様々なルートから日本国内へ新型コロナ菌は侵入し、あっという間に大都市を中心に全国へ広がっていく。特に関東圏と近畿圏及び福岡県あたり、名古屋あたりは大変な感染者数が出ることになった。当時の安倍総理大臣は、全国に緊急事態宣言を出し、学校をすべて臨時休校扱いとした。新型コロナ菌の性質がまだ十分にわかっていない段階で、とりあえずそうせざるを得なかったのかもしれないが、ここから日本の産業全体に、そして経済全体に決定的に大きな影響を与えることになる。
差し迫っていた東京オリンピックは1年延期となった。その後陽性患者は数の上では上昇したり下降したりの繰り返しで、昨年末にようやくアメリカ、イギリス、中国、ロシアにおいて新型コロナ菌対応のワクチンが完成し、接種が始まる。日本はとても間に合う状況ではなく、アメリカとイギリスに折衝してワクチン確保の確約を取った。そしてようやく今年に入って、高齢者・医療従事者等から優先的に2回のワクチン接種に入った。しかし日本国内で開発され大量生産可能なものではないと言うことで、なかなか進まない。新首相になっていた菅総理は1日100万回接種を宣言し、しばらく経ってから医療従事者たちの懸命の努力により、それは実現する。しかしコロナ菌のほうは変異株が次々に見つかり、いわゆる感染しやすい年齢層が若者にも一気に広がり、接種が間に合わない状況に陥る。そして医療逼迫状態。いわばパンデミックにも近いと言っていいほどの状況になる。入院が必要な中等症患者には各病院のベッドの空きがないと言うことで、結局自宅待機中になり、残念ながらそのような扱いの中で自宅で亡くなる人もどんどん増えていく。
これが果たして先進国と言えるのかと言うような実態。日本の医療自体は世界的に見ても、かなりな高水準であると誰もが信じてきていたが、いざ今まであまり経験したことのないような事態を迎えて、十分な対応が取れないと言う事実が明らかになったのだ。そして1年延期された東京オリンピックが近づいてきた。
果たしてオリンピックをこのままするべきなのか。やめるべきなのか。メディアや調査会社などが民間のアンケートを次々に取り始める。当初は「やめるべき」が圧倒的に多く、3分の2以上を占める。ここに「延期」を加えると8割から9割近くになる。得体の知れない新型コロナ菌に対する恐怖と言うものがある限り、これが当然の思いだろう。そしてオリンピックをすることによって、約2万人前後の外国からの選手やスタッフが入国する。そこからの感染拡大もあり得るかもしれない。そういったことからオリンピックを拒否するような雰囲気が高まる。政府やJOC、専門委員会は国民の声を背景に、何度も議論を重ねたようだが、そうこうしているうちにIOCのバッハ会長が「東京オリンピックは予定通り実施する。」と宣言してしまった。果たしてIOCの言うことが絶対なのか。IOCは日本国内の状況をどのように理解していたのか。この発言によって政府のほうは少なくとも、実施については可能との判断を下し、後は観客の扱いをどうするかと言うことになる。結論は一般観客は無し。スタッフや関係者のみが見られると言う。更に外で行われる種目についても、なるべく家のテレビで見るようにとのお達し。それでも観客は出てくるので、ハンドマイクで係員が叫ぶ羽目になった。なんともかんとも妙な雰囲気のオリンピックだ。
ところがオリンピックが始まってしばらくすると、陽性者数がうなぎ登りになっていく。各都道府県で過去最高の数と言うことが、日々メディアで伝えられるようになってきた。必ずしもオリンピックだけのせいでは無いだろうが、過去に何度も緊急事態宣言や蔓延防止策などの発令が人々に「慣れ」を生じさせてしまい、家に閉じこもることにストレスや反発が出てきていることが報じられていた。同時に選手村や競技会場を含むバブルもあちこちで敗れて、内部で感染者が次々に現れ、1部クラスター的な状態も起こる。100%完璧に防ぐことなどできない相手なのだ。もちろんオリンピックのために何百名と言う医師たち、それ以上の人数の看護師たちが投入された。ただでさえ足らない状況にあるのに、オリンピックのためだけに、大勢の医療従事者が行かされたのだ。医師たち医療従事者の中にもいくつかの団体があって、最も有名なのは「日本医師会」だが、実は政府は、これとは別の医師団体にオリンピックへの派遣を要請している。もちろんその団体は保守的で政権支持派の団体だ。最終的にその団体だけで足りたのかどうかは知らない。しかし政府もやることが極めて姑息であり、このような非常事態において、わざわざ普段から政権を支持しているような所へ、都合の良いボランティア派遣を要請するものだと思う。何か恥知らずといった雰囲気を感じざるを得ない。
オリンピックの外側では、全国的に医療逼迫状態が続き、メディアを通して専門家が人流の抑制を訴えていた。しかし実際には人々の気持ちとしては、いくら言われてもそうならないのが実情であり、結局は先にも述べたように、入院を断られた人が自宅で突然死んだりするような件が各地で相次ぐ。救急車呼んでもその救急車が来られる状態ではない、といった有様。保健所の機能は既に崩壊状態。これらの背景には政府厚労省等が、以前から行なってきた政策として、各都道府県の保健所合理化問題がある。各地に密着する形で、かつては保健所がかなりあちこちにあったが、今や整理統合され1保健所がかなり広範な地域を見なければならない状態になっている。したがってこのような細菌蔓延の状態になると、とても対応しきれない人数しか保健所にはいないのだ。病院側についても同様のことが言える。いわゆるベッド数の削減で、これは特に中規模から大規模病院において行われてきた。そして入院についても3ヶ月を限度とすると言う枠がはめられ、医療費の国の負担を減らす目的で入院者数を減らし、医療費の抑制を行うためにしてきた結果が、いざと言う場合の有事の際には、陽性者に対応しきれないと言う有様に陥ってしまったのだ。
しかしオリンピックは次々と進み、日本選手がメダルを獲得するとメディアは大喜びして、アナウンサーが叫び喜び、新聞も一面あるいは見開きで巨大なカラー写真を載せて、国民が感動するであろうような言葉を並べる。もはやコロナは脇のほうに追いやられてしまう。こうして日本は、オリンピック史上最高の数のメダルを獲得し、「東京オリンピックは成功裏に終わった」と、どこかの偉いさんがのたまわっていた。さらに「オリンピックでの日本選手の活躍が、国民に勇気と希望を与え、分断された人々が1つになれた」と、これまた偉いさんが言ってた。よくぞこういうことを平気で言うな、と呆れて感心する。オリンピック終了後も感染者数はさらに増加し、今やデルタ株から新たなラムダ株が見つかっている。さらに感染力が強いのかどうかはまだよくわかっていないようだが、コロナ菌も生き延びるために次々に変容して、自らを拡大させていくのだ。これはもうはっきり言って、細菌との戦争といってもいい位の事態だろう。
もうまもなく東京パラリンピックが始まる。政府が考えるには、おそらく無観客で実施するようだが、小学生たちに観戦させることによって、希望や勇気を与えるなどと理由をつけて、学校行事として観戦を考えているようだ。小学生くらいの若い年齢であれば、感染する確率はほとんどゼロに近いと言う事から、そのような話に多分なってるんだろう。今日も東京では感染者数が5000人を突破しており、重症患者数も過去最多を記録している。もしものことがあった場合、責任は誰が取るのか。もちろん政府とJOCが取るのが当然のことだ。とにかくオリンピックにしろパラリンピックにしろ、政府や首相やJOCやJPC(日本パラリンピック委員会)の人たちは、実際に競技を見れば「感動と勇気と希望」が与えられるものだと決めつけているが、決してそういうものではないだろう。まぁ子供たちはオリンピックなどの裏舞台と言うものは知らないので、感動するのかもしれないが、大人になると汚い裏舞台のことを知ってしまうので、そう単純に感動も希望も場合によっては出てこないものなのだ。
しかしオリンピックもいざ始まってみれば、アンケートでは「実施してよかった」が3分の2を占める位になった。「中止すべき」は10%以下だ。国民の多くが手のひら返しと言えば失礼だが、圧倒的多数の人々が、オリンピック会場とは関係のない場所に住んでいるので、テレビや新聞で見ることになる。ある意味ちょっとだけ安全な場所から見ることによって、上記のようなアンケート結果になるのも無理は無いだろう。ましてメダルメダルメダル。これだけメダルのオンパレードになれば「わが日本は凄い!」と言う無意識的なナショナリズムに、心の中は占領されるのだろう。

今日たまたまネットニュースを読んでいると、あるジャーナリストがオリンピックが終わってすぐに福島県へ取材に行った。福島原発の被害地域で、いまだに居住不可能な場所だ。10年経って当然人が戻れないので、地域は荒れ果て各家々はイノシシに荒らされて足の踏み場もない状態。大勢の人がこの地を追われて新たな生活をしなければならない。そして福島の被災者たちは、政府は「復興オリンピック」と言っていたが、そんなものどこにもない、と答えていた。はっきり言って、政府の言っている事は「嘘だ」と言っていた。本気で復興オリンピックと言うならば、野球競技が福島県で行われたが、彼らは新幹線でやってきて、試合終わったらすぐ新幹線で帰っていく。誰1人福島の実態を見ようともしない。これらの一体どこが、復興オリンピックなのだと言う。大体が政府や偉いさんが言う事はいつも、ウワベの綺麗事ばかり。中身あるいは具体的なことが何も伴わない。だからこのような場だけでなく、どこでも平気で嘘がつけるのだ。外国から来た選手たちも、復興オリンピックなどを知らないだろうし、日本国民も大半が復興オリンピック等をどこかに忘れて置いてきてしまっているんだろう。もう情けないとしか言いようがない。オリンピックの裏舞台の1つだ。
こんな風に考えるとコロナ禍でのオリンピックではあったが、とりあえず全部競技としてはやり終えた。でも本当にこれでよかったのか。国民に感動と勇気と希望を与えたと言えるのか。今日も明日もコロナの感染者数はどんどんどんどん増えていく。死者もどんどん積み重なっていく。重症者数も過去最多と言う。中症者数は全く発表されないが、この中症者数がかなり危険な状態に置かれているので、重症でないために入院できない。そして自宅で苦しんでいる中には一人暮らしで、近所の人がおかしいと思って見たら死んでいたなんてケースもある。こんな実態を見ていると、もっともっとコロナに対する様々な対策が取れたのではなかったのか。医療逼迫と言うが各自治体にも広い公園などがあり、そこに臨時の入院施設を建てて対応する方法、というのが専門家からもいろいろ出されている。オリンピックにかけた巨額の費用を、もっとコロナ対策に回すべきではなかったのか。テレビの情報番組やエンタメ番組などに1部のメダリストが呼ばれて生出演し、あれこれ褒められて喜ばれて実技の1部を披露したりしている。今の日本の状況考えると、どう考えても場違い、違和感しかない。やはりどう考えても実施するべきではなかったのだ、と言うのが私の実感なのだ。
(終わり)