
『安養寺は、京都府久世郡久御山町東一口集落のほぼ中央に位置し、山号を紫金山という浄土宗の寺院である。 門前に「 奉引上観世音尊像弥陀次郎尭円大居士 安養寺 」と刻まれた大きな石柱が目を引く。本尊は観音堂( 現本堂 )に安置される「 十一面観音菩薩立像 」で、普段は拝することができない秘仏となっている。
開創は、安永年間( 1772 ~17 81 )に記された寺蔵の「 弥陀次郎縁起 」に「 人皇75代崇徳院御宇、天治元年、今此一口淀魚の市にありしとき 」とある。
又 文化5年( 1808 )の「 寺社境内間数明細帳 ( 中西六朗家文書 ) 」によれば、天治元年( 1124 )源誓の開基、中興を空誉と記されている。 史料や伝承から当寺は、古くは淀魚の市( 現京都市伏見区 )にあったとされ、後現在地に移転したという。
この安養寺を有名にしているのが、寺の創建と深く関わる本尊の「 十一面観音 」と「 弥陀次郎 」の話で、巨椋池の漁師との縁が深いことで知られている。安養寺に伝わる「 弥陀次郎縁起 」によると、時代は崇徳天皇の御世というから平安時代も終わりのころの話である。』
(「巨椋池物語」久御山町教育委員会 より、一部抜粋)
『本尊の十一面観世音菩薩は、 祭りの期間中午後5時 まで、無料で拝観できます。
建久3(1192)年、 「悪次郎」 と呼ばれるほど嫌われ者 だった東一口の漁師・次郎が、釈迦如来の化身の高僧 に出会ったことから信仰心を持つようになります。 3 月17日夜、次郎は夢のお告げを受けて、 翌朝日の出ご ろに淀川の神木淵 (伏見区淀町付近)から十一面観世 音菩薩を引き揚げます。 そして、堂を建て仏像をお祀 りしたことから「弥陀次郎」と呼ばれるようになった と言い伝えられています。』
(安養寺所蔵「弥陀次郎縁起」より 一部抜粋)

安養寺は旧巨椋池干拓地のほぼ西北岸にある。近くを宇治川が流れ対岸には淀競馬場がすぐ近くに見えている。
お寺については一般にはあまり知られていないように感じられるが、まさに知る人ぞ知るというほどのかなり由緒のある、名の知れたお寺だ。由緒等については久御山町の教育委員会がかなり詳しい資料を作っている。そのほんの一部を上に紹介している。
お寺の創建については特定するのが難しくよく分かっていないが、建久3年、西暦で1192年と言うからちょうど鎌倉に幕府が開かれた年と重なる。旧巨椋池は当時かなり広い面積で水産業も盛んであり、また農業用地への水の供給という意味で重要な役割があった。お寺はその岸辺に建てられたものだと考えられる。創建の1192年というのはあくまでも推定なのだが、このお寺には弥陀次郎の話が伝わっており、後年になってそのことがひとつの物語的な伝承として、文書にも記されるようになった。お寺にもそれが残されており、この話とお寺の創建が関連付けられて創建の年と考えられるようになっている。
この地域にはお寺が中心となって、「双盤念仏」という行事が稚児行列と共に行われ、京都府の指定無形民俗文化財に指定されている。今から約200年前に始まったとされる行事であり、このような機会に安養寺の秘仏である十一面観音が公開されるともいう。
この地域は久御山町の「東一口」という地名であり、全国的にも最も難しい難読地名として知られている。「一口」と書いて「いもあらい」と読む。読み方はともかく一口との表記はかなり古くから見られると言う。これは巨椋池にあったここの集落が、三方を池に囲まれ出入り口が西側の一箇所しかなかったので、一口と表記されたというのが有力だ。しかし「 いもあらい」との発音はよく分かっていない。それこそさまざまな説があって決め手がないようだ。一時昔は表記も「芋洗い」だったこともあるようだが、これだと池の水で芋を洗っていたところからこのように発音するようになったということになるが、やはり「一口」との表記においては話はそう簡単にはまとまらない。
例えば、空海がたまたま巨椋池の近くを通りかかった時に、農民が水で芋を洗っていてその芋を空海が一口で食べてしまった、ということから名付けられたという説等々、様々な話がある。しかし本来は普通に「芋洗い」となっていたものが、わざわざ「一口」として定着してしまったのは事実だ。他にも豊臣秀吉説、石清水八幡宮説など色々あるみたいだが、とにかくよくわからないというのが本当のところだ。
それにしてもこの旧巨椋池というのは、万葉の昔から歌にも詠まれており、平安時代にも貴族たちがその景色を楽しみながら宴を開いたなどという話もあり、歴史的にも多々登場する有名どころでもある。私が居住している宇治市の小倉地域はこの巨椋池の東の端にあたる。今となっては干拓されてしまい、広大な農地になっていてそれはそれで必要であったのかもしれないが、歴史的な景観が失われたという意味では、何かもったいないような気もする。
